after school
今朝ちらりと視界に入った不破の顔が、昼過ぎには少しばかり明るくなっていたから。
なんて。
あの表情を読み取れるようになってきた、ただそれだけで。
こんなにも、嬉しくなってしまうなんて。
「考察終わったん?」
放課後の教室。
勝手知ったる何とやら。
何の気兼ねもなく人様の教室に入り、読書に勤しむ不破の前の席に座って、声を掛けた。
「佐藤」
手元から顔を上げた不破の、すこし驚いた顔。
何だかくすぐったくて、そしてそれが嬉しくて。
自然に浮かんだ笑みに、得意げなそれが混じった。
「結構徹夜で考えてたやろ」
「何故分かる?」
「これまでの不破の行動を俺なりに分析した結果や」
にっこりと笑うと不思議そうな顔した不破がそれでも本を閉ながら、そうか、と答えた。
開け放たれた窓から、夏の匂いを運ぶ風が届く。
校舎内からはもう殆ど人気は無くなり、遠くから聞こえてくるのは、様々な部活の音と、声だけ。
僅かに落ちた沈黙が、何故か心地よかった。
「部室に寄って来たのか?」
「や、引退したら居座んな、てたつぼん怒るし。…それ面白いん?」
「読むか」
「んー…やめとく。絶対俺には向いてへん自信あるわ」
頭の痛くなりそうな漢字ばかりのタイトルに苦笑しながら頬杖をつく。
それにしても、毎回ものの見事にジャンルの違う本の選定ポイントは未だに不明だ。
…まさか本屋や図書室の本棚を端から読んでいってるのだろうか。
そんなどうでもいい事を考えていると、不破がふと首を傾げた。
「香水…ではないな」
「へ?」
「甘い匂いがする」
そっと身を乗り出し、首元に鼻先を寄せる不破。
何となくその仕草がくすぐったくて、くすくすと笑ってしまう。
相変わらず本能に忠実というか。
まるでホームズも吃驚な大型犬だ。
「バニラエッセンス?」
「当たり。家庭科部でクッキー作ってたんや。出来たら食べてええ言われたし手伝って来てん」
「ああ、今日の活動は調理なんだな」
ちゅぅ。
「……っ!」
突然の衝撃に頭が真っ白になる。
何をされたか理解するのに数秒かかり、理解してしまった所為で一気に体温が上がるのが分かった。
反射的に仰け反って首を抑えると、不思議そうに見守る不破と目が合った。
いきなり何をするんだ、とか、場所を考えろ、とか。
咄嗟に怒鳴ろうとした筈が、きょとんとした表情を浮かべている不破に、すっかり萎えてがくりと肩を落とす。
なのに事を引き起こした張本人は、大丈夫か、と聞く始末である。
誰の所為だ、と思わず溜息が出た。
理不尽すぎる。
何かいろいろと言いたい気分満載なのに、無意識の不破に説教する言葉がもう自分には見つからない。
とりあえず、落ち着けと自分に言い聞かせる方が効率が良さそうだ。
平常心、平常心。
「…何もない。帰ろ」
「ああ」
何事も無かったように支度を始める不破を軽く睨んで、やがて苦笑する。
窓越しの青空が気持ちいい。
少し傾き始めた太陽の光が柔らかく包む教室を、二人並んで後にする。
「…不破にはとりあえずセキニン取ってもらうで」
「何の責任だ」
「コンビニ行こ。腹減った」
「さっき食べて来たと言っていなかったか?」
「足りへん。それに、成長期の健全なシゲちゃんは腹に溜まるもん食いたいんや。甘いんよりな」
「毎日のようにコーラを飲んでいる人間が何を言う」
「飲み物と食べ物は違うんですぅ〜」
「体内に入れば一緒だろう」
「身体に入れるまでの過程が大事なんや」
「そういうものなのか」
「そうや。お前もちゃんとメシ食わんかい」
少しずつ、が積み重なって沢山の事を知っていった。
何となく、を寄せ集めたら確信になっていった。
きっとこれからも、ずっと。
「お前も、遅くまで漫画か雑誌を読んでいただろう」
「…なんで?」
「いつもよりも少し目が赤い」
「……」
でも、それもどうやら。
お互い様、らしい。
…悔しいけど。
*****2011/06/12
く、首にちゅーする不破が書きたかった…満足。
最近不破シゲ話で毎日盛り上がってテンションが大変な事になる事件が発生してます!(なんて幸せ)
なんだかんだ言って、やっぱり一番好きな2人です。
ありがとうございました。