Comfortable
『お疲れさん。いま何処?』
「帰ってきたところだ」
『おー、おかえりー。遅かったんやなぁ。ちゃんと休んどんの?次のオフいつなん』
「明日、明後日だ」
『そかそか。何か予定入っとんの?』
「特にない」
『さよか』
電話が掛ってきたのは突然だった。
大した用が無い時でも、生存確認だ、と成樹は不破に時折こんなふうに電話を掛けてくる。
たわいのない話を一歩的に話したり、日常を問うたり。
言わずもがな成樹が思い立った時なので、周期や時間は定まらずまちまちだ。
掛けてくる場所も屋内外様々だが、今日は携帯越しに微かな風の音が届いてくる。
もう時間帯もだいぶ遅いが、帰宅途中なのだろうか。
「外にいるのか?」
『ん。外やで。もうすぐ着くわ』
くす、と笑い声の後、声色に笑みが増す。
『不破ん家に』
「……」
彼が唐突なのは今に始まった事ではない。
だが、それにしても。
まさかこう来るのは予想外で。
一瞬の沈黙。
今、自分のその反応を電話越しに楽しんでいるだろう成樹が、驚くほど容易く想像できてしまう。
それが何となく悔しくて、声のトーンが少しだけ下がった。
「…何処にいる」
『今近くの公園通り過ぎたわ』
「まっすぐこちらへ向かえ」
場所が特定できれば電話はもう必要ない。
早々に通話終了し、そのまま外へと足を向けた。
突然切られた携帯に口元で少し笑って、そのままジーンズに押し込んだ。
梅雨を前にして少し空気が湿気を帯びている気がする。
それ以外は暑くも寒くもなく心地いい気温だ。
時間が時間だろう、通る道には自分以外の人気がない。
…否、少し先の見知った建物のドアが開いた。
そこからやはり見知った顔が現れ、自分を視界に入れ確認すると、表情を和らげた。
「居なかったらどうするつもりだったんだ」
他人に言わせれば威圧感を与える無表情の代表であるその目に、負の色は少しも見えない。
まぁ、少し呆れているくらいだろうか。
そんな不破の顔を見て、自然と浮かぶ笑みを悪戯なものに変える。
「ちゃーんとアポ取ったやろ?」
「次は京都を出る前に連絡しろ」
「九州遠征て来週末からや言うてたやん?せやから家にはおるかなぁて」
「明日は?」
「俺もオフ。ホンマは顔見られたらラッキー位な気持ちで来たんやけどな」
さっすがシゲちゃん。運ええわぁ。
そう言って笑うとそっと手を握った不破が苦笑する。
「相変わらずだな」
「相変わらずやろ」
二人で笑い合った。
「ん――っ」
ベッドに寄り掛かって本を読んでいると後ろから大きく伸びをする声がした。
首だけを向けて声の主の様子を見ると、先ほどの欠伸で少し涙ぐんだ成樹がベッドに突っ伏している。
ベッドを占領し、寝転んで読んでいたはずの雑誌を避け、もう半分意識が夢の中のようだ。
「眠そうだな」
「あー…あかん。昨日あんま寝てへんと、さっき新幹線で中途半端に寝てしもたんや…」
「そのままもう寝ろ」
「…ん」
のそのそと起き上がって布団へ潜り込もうとした成樹が、少し間を置いて不破へと向き直る。
緩慢な動きで不破の腕に触れたその手に、力は殆ど篭ってない。
「どうした」
「…不破も寝よ。明日起こしてや」
先に布団に潜り込んだ成樹に苦笑してそれに倣う。
後ろから抱きしめれば、一瞬ピクリと動いた成樹が、抱きしめた腕にゆっくりと手を添えた。
「あー…不破や…」
噛み締めるような、安堵の声。
短くなった髪から覗くその首筋に、不破は唇を寄せた。
「いつも以上に読めない行動だった」
「不破が淋しがっとるやろ思て来たんやで。惚れ直すやろー」
くすぐったそうに笑う成樹が、身体を向け、少し赤らんだ顔を誤魔化すように笑う。
「一生かけて口説き続けたるから覚悟しぃや?」
更に予測出来なかったセリフに瞠目した不破が、やがて穏やかに、そして不敵に笑う。
「お前もな」
目を合わせて。
悪戯っぽく笑い合って。
互いにそっと近づくその唇が。
優しく静かに、重なった。
「明日どないしよ」
「佐藤」
「ん?」
「おかえり」
「…ただいま」
*****2010/06/16
ご無沙汰してます。生きてます。笑。
オフでの敬愛する相方様の誕生日にこっそり不破シゲup★
おめでとうおめでとう。これからもよろしくね。
シゲが言わないだろうセリフを敢えて言わせてみようと挑戦!
あれ、今回は意外と素直でした。笑。
タイトルは、居心地の良さ、という意味を込めて。