For you
炎天下に熱を持ち、更に気温を上げるアスファルト。
次々に流れ出る汗を手で拭って、到着した目的地・草晴寺。
「ごめんくださーいっ」
いつも通り、まるで我が家のように扉を開けて中へと声を掛けると、一瞬の間の後、奥から扉の音が聞こえた。
そして気だるそうに階段を降りてくる、聞きなれた足音。
わざとそんな風にしてみせるのが半分照れ隠しだと知ってからは、もう。
「さとー!」
大好き、が加速する。
「何やこの暑さ…地獄やん…」
「後ろに乗ってる奴が言うなよなーっ」
成樹を後ろに乗せた藤代が笑いながら自転車をこぐ。
その様子に半ば尊敬しつつ、呆れつつ。
何でこの暑さでこの元気なのか心底不思議で仕方ない。
馬鹿なのか?そうか馬鹿なのか。
そんな本人が聞いたら軽く凹むか青筋たてて苦笑するレベルの結論に達して成樹は自己満足した。
それにしても…。
「本気で3駅分これで行く気なん?」
「もっちろーん!」
「俺交代せえへんで」
「いいんだよ!今日は特別ーっ」
「…はぁ?」
目的地は3駅先の大きめなスポーツショップ。
後ろに乗れと言われ、てっきり駅までかと思いきやそのまま直行だと分かったのは藤代が線路を並行し始めたから。
理由を聞いても、そんな気分、と返されればもう何も言えない。
もともと突拍子もないのは出会ったころからちっとも変わっていないし、それに。
勢いに乗ってしまえば、藤代は怖いものなしの無敵状態になるのだ。
休日の店内はさすがに賑わっていて人が多い。
各スポーツ別に分かれたコーナーを入口付近から順にハシゴしながら、サッカー用品のコーナーへと向かっていると。
「これは?これは?佐藤に似合うと思うんだけど」
「片っ端から何やねん」
「いやー、だって佐藤って何着せても似合うんだもん」
「元がええからな」
「なーっ」
「…そこは突っ込めや」
「何で?ホントの事だろ?」
「…お前絶対あれやな。子ども出来たら親バカになるな」
「えー?あ、でもこれなら肯定できるけど」
「何」
「佐藤バカ」
「アホかっ!」
照れてるー、と指を差して笑う藤代に言葉を失い、開いた口が塞がらない。
言い返したいのに思考がショートしたように何も出てこない。
こういう瞬間、負けている気がして悔しいのに、なのに。
「でもホント。俺佐藤大好きだし」
この笑顔が、全部持っていってしまう。
屈託ない表情で、呆れるほどにストレートで。
真っ直ぐに伝えてくれる。
大好きだよ。
大切だよ。
何度も、何度も。
「何だかんだ言っても、こうやって付き合ってくれるし」
「ゴーインに連れ回したの誰や」
「おれー!」
語尾に乗っかるハートマーク。
ほら、こういうところも。
いつの間にかこの笑顔につられてしまう。
「ほら、そうやって笑ってくれるし」
「これは苦笑いや」
服やアクセサリー、食べ物、テレビ、そしてサッカー。
共通の話題は尽きる事が無く。
一緒に過ごす時間の短さと楽しさを改めて感じた。
「あー楽しかった」
「やな。でも結局何しに行ったんやろな」
帰り道、行きと同じくらい楽しそうな声が聞こえてきた。
背中越しの声を聞きながら、成樹は苦笑する。
いろんな店には入ったが、結局二人とも何も買わなかった。
適当にうろついて、ファーストフード店で雑談して。
気が付いたら日が傾き始めていた。
「そうだ、佐藤これあげる」
不意に自転車の籠をごそごそとしていた藤代が、器用に後ろ手に何かを差しだしてきた。
「へ?」
「誕生日だったろ?プレゼント」
「……いつの間に買ったん」
「えーと…先週?だったかな。今日じゃないよ」
何気なく言う藤代の言葉に、改めて手のひらサイズの包みを見る。
言葉通りならわざわざ準備をしててくれたんだろう。
「何がいいかリサーチしようとも思ったけど勝手に選んじゃったよ」
「……」
でもぜーったい気に入ると思う。勘だけどね。
そう言って笑う藤代の突然の不意打ちに、一瞬言葉を失った。
「何?感激して声も出ないってやつ?」
「っア・ホ・か。暑いだけや!」
「でも俺、暑いけど夏は好き」
不意に振り返った藤代。
「だって佐藤が生まれた季節だろ?」
ニッと笑う邪気の無い笑顔に感じた、真夏の青空のような眩しさ。
「…っ分かったから前見ろて!事故ったらシャレにならん」
「へへっ」
ようやく前を見た藤代が更に自転車の速度を上げる。
夕暮れに染まる景色の流れが早くなり、吹き抜ける風が心地いい。
顔が火照った気がするのは、きっと暑さでも夕日の所為でもない。
一瞬だけ迷って、藤代の背中に頭を預けて。
「おおきに」
吹きぬける風に、この声が届いたかは分からないけれど。
*****2011/07/08
なんとか滑り込みセーフ!笑
バースデー藤シゲバージョンです。
いつもお世話になっている藤シゲスキーなおしのさんへ勝手に捧げてみました。
こんな感じでよかったらもらってやってください、笑。