peace of mind
屋上の給水塔は、授業中は自分だけの特等席だった。
日に日に暑さが増していく中、今日はいつもより気温が低く、心地いい風が吹いていた。
青空に大きな白い雲が泳ぎ、時折太陽を隠しては去っていく。
こんな清々しく天気のいい日は絶叫の昼寝日和だ。
移動教室の理科の実験よりも余程興味をそそる空に誘われ、成樹はまっすぐ屋上へと向かった。
「…取られとる」
「佐藤」
給水塔に背を預け読書に耽っていたいた不破が、登ってきた成樹を視界に入れた。
丁度太陽の陰になる位置に座っている不破の場所は、いつもはシゲの特等席だった。
「なんやCクラス自習?」
「ああ。前の授業からな」
「2時間も?課題出たんちゃうの」
「プリントが5枚出た」
「…終わらせ…てきたんやろなお前は」
「昨日までの復習だ。30分弱で終わってしまって暇になったから此処へ来た」
「ほんまに教師泣かせやなぁ。おもろいけど」
くくく、と漏れ出る笑いを抑えきれないまま隣に座ると不破が不思議そうな顔で首を傾げる。
「ん?」
「顔が赤い。風邪か?」
「そ?普通やと思うけど」
そっと伸びてきた大きな掌が前髪を優しくかき上げ、不破が額を合わせて来た。
触れた温度に心地よさを感じたと同時に、目の前の不破と視線が合う。
くすぐったいような気がして、自然に口元が綻んだ。
「どんな?熱い?」
「微熱があるな。」
「ええ〜、元気やで。いつも通り起きて、飯食って…」
「いつも通り遅刻してきたな」
「うっさいわ何で知ってんねん!」
至近距離での苦笑まじりの攻防戦。
誰かに触れられるのが苦手だった頃の自分には、きっと考えられない光景なんだろう。
何ともない振りをしながら、不破の手から与えられる熱に、身体を竦ませた事が多々あったあの頃。
手をつないでみたり、キスをしたり。
それはまだ平気だった。茶化せばそれで間が持った。
でもふと起きる沈黙の中で頭を撫でる手の感触、隣合って座り触れてしまった肩。
ふと与えられる体温に、どう対応していいのか分からなかった。
預けたらこんなにも安心できる体温だと、知らなかった。
「自覚症状は無いのか?」
「ないない。ぜーんぜん。…あ、でも」
「どうした」
「不破の膝貸してほしいなー。読書の邪魔はせえへんし。な?」
額を少し離して正面からニッコリとおねだりすると、そっとキスがひとつ。
立てていた足を片足伸ばし、シゲの頭を受け止めてくれた。
「そのまま寝ていろ。起こしてやる」
「へへ、お邪魔します〜。シゲちゃんの頭脳ミソいっぱい詰まっとるから重いけど堪忍な」
「……そうか」
「なんやねその間」
「気にするな」
「するわアホ」
拗ねた顔でイーッとしてやると、一瞬きょとんとした不破が僅かにに口元だけで笑んで頭を撫でた。
その優しい感触に今までの勢いもすっかり削げ落ち、小さく息を吐いて目を閉じた。
体調の異変はやぱり感じないけれど、無意識に人肌を求めていたのかもしれない自分に気付く。
覚えた温もりは今日も変わらず和やかな空間と安らぎをくれるから。
幸せと癒しを、くれるから。
ずっと、こうして傍に居たい。
今、不破という存在を知って、触れて、愛しているんだと。
大切にされているんだと。
もっともっと、理屈じゃなく感じていたい。
君と出会えて、よかった。
*****2011/07/08
シゲを甘やかす不破くん。甘やかしてる自覚があるかは置いといて。
でもひたすら甘やかすだけじゃなくてダメなことはダメだって言ってくれそうだから好き。
シゲもそれを解ってるから安心して甘えちゃうんだと思います。
決して自堕落にはならないって信じられるからちゃんと自分でブレーキをかけられる。
お互いがいる事でプラスの方に向かっていける関係でい続けてほしいなと思いつつ。
シゲ28歳ハッピーバースデー!おめでとう!