story




しとしと、しとしと。



厚い雲で灰色に染められた空から。



しとしと、しとしと。



季節はしっかりと梅雨へ突入していた。







朝から降っては止んでを繰り返す雨粒。

折角の休日なのに、この天気では何となく気分が落ちる。

初夏の心地よさの味をしめていただけに、尚更恋しくなる太陽の存在。

四角に切り取られた外の景色を眺めながら、時折視線を時計に向ける。

午後1時まで、あと数分。

この雨の中やって来ると言っていた不破も、さすがに多少は濡れて来るだろう。

タオルくらい用意しておこうかと立ち上がった時、タイミングよく呼び鈴が鳴った。





「…何でずぶ濡れやねん」

「雨が降ってきたからだ」


頭からタオルを掛けてやると、そんな分かりきった答えが帰って来た。

せーやーかーらー、と苦笑しながら八つ当たり気味に頭をわしゃわしゃと乱暴に拭いてやる。


「傘どないしたん?ずっと降ってたやろ」

「途中で貸した」

「?…誰に」

「猫だ」


されるがままになっていた不破の一言に、手がぴたりと止まった。

予想の斜め上を行く回答に、思わず不破の目を覗きこんだ。


「…はい?」

「二つ先の角の軒下のダンボールの中に仔猫が居た」

「ん」

「これ以上雨脚が強くなると中まで降り込みそうだった。少し風も吹き出したからな」

「…貸して、きたんや」


頷く不破を見ながら、情報を整理する。

つまりあれだ。

来る途中に出会った捨て猫が濡れそうだったから傘を差し掛けて。

当たり前だがその結果、不破自身は雨でずぶ濡れになって。

それでも約束の時間を守るために寺へやってきた。

不破のこの行動を周りが知ったら、一体どんな反応を返すだろうか。

ふと考えて、おかしくなってきた。

猫に傘を差し掛ける不破、なんて。

天変地異でも起こるんじゃないかと、もしかしたら恐怖するかもしれない。

確かに、自分もいろいろ驚かされてはきたけれど。

貸した、と言うくらいだから雨が止んだら引き取りに行くつもりだろう。

どちらにしろ、そのやり取りが微笑ましくて仕方ない。

うっかり可愛いと思ってしまった自分は、きっともう末期。

不破の優しさに救われているのは自分も同じだと、自覚はしていたから。


「とりあえず風呂と着替え貸したるし、入れや」

「すまん」


とりあえず風呂に追いやって、部屋に戻る。

Tシャツとジーンズと新しいタオルを用意しながら、ふ、とまた笑ってしまう。

先程から何度も脳内リピートを繰り返す、不破と猫。

確かに意外だけど、案外しっくりくるような気がして。

脱衣室に着替えを置いて、そのままの足で玄関に向かった。

外はまだ止む気配が無い。

扉の向こうは降り続く雨。

傘立てから大きめの傘を選んで、外へ出た。


「この雨で傘無しはアホやろ…」


長い敷地から門を出て歩き出す。

大粒の雨が傘に叩きつけられ、はじける音が無数に響く。

目的の物は、すぐに見つかった。

黒い傘が、地面に不自然に広げられて放置されている。

覗き込むと小さなダンボールに小さな三毛猫が一匹。

丸まっていたが物音に気付き、大きな目をこちらに向けた。

にー、と一声鳴いて立ち上がると、まっすぐに成樹を見上げてくる。

すこし色素の薄い茶掛かった瞳が、印象的だった。


「不破はメンクイやなぁ」


くすくすと笑って抱き上げる。

軒下と傘のおかげで、多少汚れてはいるが濡れてはないようだ。

にー、と再び鳴いて腕の中から見上げてくる。

抱き上げられるのに抵抗は無いらしい。


「この傘な、返して欲しいんや。せやけど、無くなったらお前も困るやろ」


喉元を撫でると目を細める。

愛くるしい姿に、自然と口元が緩むのが分かった。


「一緒に行こか。この傘貸してくれた兄ちゃんも心配しとるで」


顔は無表情やけどなー、と笑いながら仔猫を箱に戻し、片手で器用に畳んだ不破の傘と一緒に持ち上げる。

急に不安定になった足場に戸惑いながらも、仔猫は上手にバランスを取っていた。

その様子を見ながら足早に寺へと戻る。

この仔猫を見て、不破は何と言うだろうか。

そう考えると不思議なくらい、楽しくて仕方ない。

うっかりこの仔猫と目を合わせた不破が、傘を差し掛ける瞬間を想像する。

寺までの距離を考えたらどうしてもずぶ濡れになる事を分かっていて、それでも『貸して』来た不破。

クラッシャーと言われるほど破壊活動に繋がる事が多い分、誤解されやすいのかもしれないけれど。

結果が相手にとってプラスになるかマイナスになるかは受け取る側にも左右されるけれど。

不破はいつも、ただ真っ直ぐなだけ。


「ほんまに…優しい奴」


愛しむように口から零れたのは、なかなか言えない本音。

こんな温かい気持ちを面と向かって口に出せない自分は、本当に不破とは大違いだ。

素直になるタイミングが、未だに掴めない。

今までの自分とは少し掛け離れた感情を、まだ上手くコントロール出来ない。

そんな自分を当たり前のように受け止める不破の傍に、すっかり心地よさを覚えてしまった。

不破が隣にいることが、自然になった。


「今のは不破に内緒やで」


調子乗るからな、と照れ隠しに話しかけると、タイミングよく仔猫がまた、にー、と鳴いた。





















*****2011/06/18
男前なのに何で不破ってあんなに時々可愛いんですか!爆。
不破シゲ充と猫充すぎて、もうあとはドッキングするだけでした、大笑。
うちの不破シゲは基本大地が押せ押せな感じなんですが、同じかそれ以上にシゲが大地大好きなんです。
でも天邪鬼の困ったちゃんなので追いかけられるのが居心地いいんです。安心すると言うか。
嬉しいのに、素直に嬉しいと受け入れてしまう事がまだ怖いんじゃないかと。
そんなシゲを分かっているのかいないのか、それでも大地はぜーんぶ受け止めちゃうんです。
やっぱセンセ可愛いけど男前だ。シゲが惚れるのよく分かる。笑。
続く…かも?