summer day




『夜八時に部室裏に集合な!』

楽しそうに笑う成樹に告げられ、すっかり暗くなった学校へと潜り込んだ。





「さすがやなぁ。時間通り」

辺りがすっかり暗くなった夜のグラウンド。

真っ直ぐ言われた場所へと足を運ぶと、先に来ていたらしい成樹がひょっこり顔を出した。

唯一確かな明かりを届けているのは、職員室の蛍光灯。

おかげでこの暗闇の中にいても、成樹の表情は読み取る事が出来た。

笑っている。 「これまでの俺の経験上得た情報を元にすると、」

「へ?」

「佐藤が突拍子も無い事を思いついた時と、今のその表情が一致している」

不破の発言にぽかんとした成樹だが、すぐにその意味を捉え、くすくすと笑った。

簡単に胸のうちを分析されるのは悔しいけれど、完全にその通りで。

なのに不思議とその相手が不破ならば仕方ないと思えてしまう。

そして何より、つい顔に出てしまっている自分をこれまで幾度も自覚してきたのだ。

「敵わんなぁ…」

「?」

「何でも。こっちやで!」

ニッ、と笑って目的地へと歩き出す。

こうなるとこれ以上尋ねても無駄だと不破悟った。

確実に何かを企んでいる顔なのだが、敢えて勿体ぶって驚かせたいと先行く背中から十二分に伝わってくる。

時折振り返ってついてきているか確認する成樹と目が合うと、その都度楽しそうな笑顔が返ってきた。

大した距離は進んでいないが、どうやら行き先は昇降口では無いようで。

校舎へと向かうのかと思ったのだが違うらしい事が分かった。

「どこに行く?」

「この暑い季節にピッタリな場所て言うたらもう決まりやろ」

不破の問いに立ち止まってを振り返ると、カシャン、と後ろ手にフェンスを掴んで笑ってみせる。

微かに塩素の匂いがする、そこは。

「プール?」

「当たりーっ。っつーワケで。入るで不破」

入り口には鍵が掛かっている。

少し前の自分ならきっとそう言っていたに違いない。

目の前でひょいっとフェンスと上がって向こう側へ着地する成樹を見ながら不破は思った。

思った通りの展開に軽く息をついて苦笑すると、同じように内側へと侵入した。

「おー、冷た〜っ」

さっさと靴を脱いでプールに足先をつけてはしゃいでいる成樹に倣い、靴と靴下を脱ぐ。

プールサイドに座って同じように足先をつけてみると、思ったよりも冷たい水が心地いい。

確かに夜も寝苦しいほどの気温になる今の時期には最適な場所だ。

と、隣を見ると先程まで騒いでいた成樹が消えていた。

何処へ行ったのかと振り返った、正にその時。

バシャ。

正面から突然水が降りかかり始めた。

呆然とした不破の視線の先には、成樹の屈託ない笑顔がある。

その手にあるホースの先端から止め処なく流れ出す水が、瞬く間に頭から足先まで大量の水分を含ませていった。

「……」

「暑い時はこれが一番やろーっ」

楽しそうに笑いながら、そして今度は自身も同じように頭から水を浴び始める。

髪や服が水を含むことを気にする様子も無く、上を向いて、気持ちよさそうに目を閉じて。

その満足そうな笑顔とか。

髪や首筋を伝い落ちる水とか。

突拍子もない出来事に呆然としていたはずが、今はただただ、目を奪われていた。

視線が引き付けられる、と表現した方が正しいのかもしれない。

「なんや足りひんの?」

やがて視線を感じたのか、気付いた成樹がニッと笑った。

再び降りかかる水に完全に濡らされてしまう。

一度目を閉じてため息をつくと、無邪気に楽しんでいる成樹の隙をつき、ホースを奪った。

ホースの端に軽く圧を加えて水に勢いをつけ、そのまま成樹の顔面めがけ水を飛ばす。

「っぅわ!ちょ、タンマっ!」

まともに衝撃を受け、咄嗟に背けた横顔にも遠慮なく攻撃を続ける。

服よりも頭部の方が何となくダメージを感じるのはたった今実証済みだ。

ただ、避けようとする成樹が完全に面白がっているのでダメージを受けてるとは思えないのが少し癪だが。

待って待って、と笑いながら逃げる成樹を更にホースの水で追う。

すぐに壁際まで追い詰めて、逃げ場を無くした。

「不破っ、も、あかんて降参っ!」

顔に手をかざしてガードした成樹はそのまま勢いよく近づき、不破に抱きついて来た。

うー、と力ない声を出してくっついている成樹の身体を少しだけ離し、顔を覗きこむ。

「反省したのか」

「ごめんなさーい」

目を見て尋ねると、へへー、と笑う成樹に更に頭から水をかける。

「わーっ!ごめんなさいしたやろ!」

「誠意がこもっていない」

腕をまわして拘束した状態のまま水を掛ける不破相手に、上手く身体が動かない。

水が頭部から背中を伝い、滝のように流れていく冷たい感覚。

何とか逃れようとじたばたしてみるが、悔しいくらい効果がない。

とりあえず思いつくだけの謝罪の言葉を叫んでみても無言で一蹴される。

だんだん疲れてきた成樹は、やがて最後の手段とばかりに今度は逆に、ぎゅう、と一度強く縋り付く。

「な…許して?」

そのまま耳元で甘く囁いて、頬にキスをする。

反撃に拘束が緩んだその一瞬をを逃さず、不破からするりと抜け出して水道の蛇口を慌てて閉める。

みっしょんこんぷりーと…、と呟いて戻ってくると座り込んで脱力する。

「はー…、不破容赦なさすぎや…」

武器を奪われた不破は、水の出なくなったホースを置いて隣に座った。

「先に仕掛けたのは誰だ」

「えーと、…どちらさんやろ?」

にっこりと笑って見せる成樹だが、不破の視線に薄ら寒いものを覚え、笑顔がぎこちなくなってくる。

やがて小さく首を竦め、ごめんなさい、と引きつった笑みで見上げながらもう一度謝った。

その様子に表情を緩めた不破は、そっと成樹の頬に右手を伸ばした。

「いたたたたっ」

「着替えもタオルもないが」

そのまま軽く頬を引っ張り、大げさに痛がってみせる成樹に諭す。

手を離すと少し拗ねたような顔で自分の頬を撫で擦り、やがて着ていた服を引っ張る。

「あー、せやな。確かにこれは気持ち悪いわ」

来ていたシャツを脱いで絞ると、大量の水が零れ落ちて苦笑した。

「不破は平気なん?」

言われて気付き、不破もシャツのボタンに手を掛ける。

その様子を見ていたシゲが、くすくすと笑う。

「どうした?」

「いや…」

両手をついて不破へと身を乗り出し、水分を含んで張り付く不破の前髪をよける。

「水もしたたる?」

柔らかな笑みを浮かべ覗き込んで来る成樹を引き寄せ、口付けた。





















*****2011/06/26
お疲れ様でした。えーと、夏って言えばプールですよね!(挨拶)
他にも浴衣だー花火だー祭りだーとかいろいろ言ってたんですが、プールって単語にピン!と反応。泳げないくせに。
学校のプールに忍び込んでホースで服着たままの不破に水掛けてきゃっきゃしてる佐藤さんが見たい!!!
と、散々いろんな人に言い散らかして → 自家発電。大笑。
先生とかに見つかって2人ともびしょぬれのまま逃走するシーンも書けば良かったなぁと思ったり。
そしてそして!!!!
何となく書き始めた頃に、友達(と書いて不破シゲの師匠と読む)から素敵な物が!
まさかのそのプール不破シゲのイラスト!言い散らかしてみて良かった!(*´д`*)
掲載許可いただいたので載せさせて頂きました。ありがとう!そしてありがとう!!
素敵イラストはこちら!